Stories

←Index

Quantonic Interview

昨年、井上薫の楽曲「Etenraku」をRemixし、SEEDS AND GROUNDからアナログ12"としてリリース。それに続き今年、Lifetime Boogieから自身のフルアルバムをリリースすることとなった Quantonic aka Ignat Karmalito 。今回は CitiZen of Peaceとして知られる彼の異なる次元、Quantonic として質問に応えてもらいました。

アフリカ・ガボンの密林奥深くで3ヶ月の修行を終え、インド・ニューデリーに立寄ったイグナット。同国北西部の山奥へ入る前の彼をつかまえ、2014年 6月某日、インターネット通話にてインタビューを行いました。

量子加速装置 - Quantonic

あらたまってインタビューなんてするのもお互い初めてですが、よろしくお願いします。

よろしくおねがいします。

まずは Quantonic という名前の意味から教えてください。

「Quantum = 量子」つまり量子物理学の量子と、「Tonic = 強壮剤・活性化」をかけあわせた造語です。この世に存在する最も小さな単位「量子」をダンスさせ、刺激をあたえることで限界を突破させます。そうすることによって固定された外郭を超え、外に飛び出していきます。ダンスするのは何も身体だけじゃないということです。

いきなりすごいとこから入りましたね。量子加速装置とでもいうような?

(辞書を引く)うん、そうですね。いい日本語だと思います。アルバムタイトルの「Overmind」もそういったところに由来しています。
身体や考えといった「固定されたもの」を超えていく。その身体、その考え、その先、です。

これはよく尋ねられる質問なんですが、CitiZen of Peace と Quantonic の違いってなんでしょう。
もちろん音楽の感じは全然違うんだけど、イグナットの中での線引きというか…。

明確にくらべられる対象でいえば、Quantonic は都市で生まれたもの。CitiZen of Peace は自然の中で生まれたものです。
このアルバムの曲をつくりはじめた当時(2003年)、私はモスクワの街中に住んでいました。
その頃、地球に太古から伝わる民族のリズムやグルーヴが持つすごい陶酔感や恍惚感の研究に熱中していて、それを現代の電子機器を使ってダンスフロアで鳴らしたらどうなるだろう、と。
それに当時まだ本格的なフィールドワークに出る少し前で、街にとどまっていた私はとにかくジャングルや大自然の中に飛んでいきたかった。それで街にいながらにしてあの楽園へジャンプ・アウトする方法を考えました。
2つを比べるなら、Quantonic はエレクトロニック・トライバリズムを使って時空を超え、街から楽園へ自由に飛び出すスタイル。CitiZen of Peace は楽園から街へ、やはりエレクトロニクスを通してエナジーやスピリッツを送りこむスタイル。心は同じだけどやり方の方向性が違います。

エネルギーの流れは逆向きだけど、目的は同じなんですね。

そうです。ただやはり、街は何かとヘヴィーだと感じます。それでヒトのDNAが記憶している原始のリズムと共に、数学や幾何学のテクノロジーをかりてなんとかそれを飛び超えるんです。

以前イグナットと、レーベル内での Quantonic の扱いや立ち位置について話し合った時のことを思いだしたよ。
ヨガやヴェーダ、自然に基づく CitiZen of Peace と比較して、Quantonic は「破戒僧」的な考え方だと。この話を聞くとそれは正しかったと思えるね。

CitiZen of Peace を正位置とみるならそうですね。Quantonic が破戒僧というのはかなり的を得ていて気に入っています。
私なりの表現で言えば破戒僧は Anarchy Saint ですね。

Release Party " Devotion - Insight Music Portal - " at MAGO

Quantonic やアルバムのメッセージは 8月のリリースパーティー「Devotion」のテーマとも合致していますね。
イグのメッセージのひとつである「身体や考えといった固定されたものの外郭を超える」を、パーティーひと晩かけて皆でやってみようと。

そうだね。今回の Devotion のテーマ「Raise the Spirits」は、Quantonic の持つ「強壮剤」や「活性剤」という側面とピッタリだと思います。それを日本の皆さんと一緒にセッションできるのはすごく楽しみです。
音楽も DEEP COVER 先輩と O.N.O さん、Quantonic もそうだけど、みんな身体や心の内側を Stimulate (=刺激する・活気づける)する瞑想的なものですね。皆さんの音楽・LIVEでダンスして細胞を震わせれば、内側の世界に入って自分をよく知る(=Insight)ことができると思います。このパーティーでそのドア(=Portal)を解放できたらいいですね。
Insight Music Portal 、日本の鳥居のような感じですね。

鳥居!なるほど、すごくいいですね。今回の Devotion のサブタイトルはそれにしましょう。「Devotion - Insight Music Portal -」。
当日は野生の日本ミツバチのハチミツや、奄美大島のハブの粉末、フレッシュアサイードリンクなんかも用意しているから、暑い時期だし身体も元気になってもらいたいな。

それは私にも絶対に必要ですね。日本の Wild Spirits を身体にやどらせて音楽をプレイします。

仮想世界が育てる狂気の卵の話 と アナログシンセサイザー

アルバム楽曲について。例えば4曲目の「Incubao」には特徴的な 8bit サウンドが入っているけど、当時何を思ってあの音色をつかったの?

あの音は Nord Lead でプログラミングしたんですが、古いシンセサイザーなのでエラーが多く、大変でした。
「Incubate = 孵化・培養」つまり何かの機が熟すように成長していくということ。
例えば私たちの体内にマラリアが侵入した後、彼らは体内で Incubate し、完了次第感染者にマラリアの症状が現れます。Incubate している間は自らを活性・変異させ、活動の場となる体内を培養に適した環境へとゆっくり調理していきます。
同じように、デジタル・リアリティは狂気の成熟を目指し、それを卵のようにあたためます。そのあたたかい仮想世界にいると、成長のように気づかないくらい少しずつ自分のシステムが狂っていくような感じです。
そのデジタルな仮想世界と意思疎通できるツールが「機械」です。機械を一番象徴したサウンドが 8bit だと感じた私は、これを Quantonic(=量子加速装置)に乗せ、いっそ振り切らせてしまうことを思いつきました。
過度にシステムを狂わせることでそこからジャンプ・アウトするということです。まさしく卵があたたまり、孵化して翼を獲て飛び立っていくのと似ていますね。

さすが、マラリア経験者が言うと説得力のある例えです。たしかに現代社会において、無意識にそういったことが進行するという感覚はありますね。
変化を恐れずに振り切って突き抜けてしまおうという発想はなんだかすごくいいと思います。

CitiZen of Peace のLIVEでも VJ をやってもらっている Meg さんに Music Video をつくってもらった「Tranquo」。これはどういう意味ですか?
この曲は特に穏やかというか、やわらかいというか、他の曲と雰囲気が違うように思いますが。

Tranquo は「Tranquillity(=静寂・平穏)」からきています。「-quo」は、ゆらぎのないバランスや、永続的な均整を意味します。Tranquo は平穏と平和に満ちあふれた状態を表します。
他のトラックが感情や身体など様々な部分を加熱・加速させるのに対し、この曲だけが反対の鎮静的なエネルギーを持っています。外郭を破ったトランス状態というのは、激しい動きや感情だけで成るものではありません。愛で、やさしさで、やわらかさでも成り得ます。感情や心が物理的な枠を飛び超えたとき、とても穏やかな、充実した気持ちを知るでしょう。
Quantonic の音楽を使ってハイパースペースを旅した後、加速した細胞や気持ちをゆっくり鎮めるランディング・システムがアルバムの最後におさめられています。

このアルバムでは Nord Lead 以外にどんな機材を使ったの?

まずはなんといっても Moog 最大にして唯一のポリフォニックシンセ「MemoryMoog」ですね。このアルバムにとって一番大切な音を担っています。
例えば Prophet-5 なんかも所有していましたが、Quantonicのサウンド、世界観には断然 MemoryMoog です。
他にもRoland の JUNO106、JX-8P、TR-909とか。制作には NUENDO を使っていました。

以前も聞いたけどそのヴィンテージな機材、全部イグの所有物だったんでしょ?すごい顔ぶれだよね。でも一部は手放して辺境探索の資金にしたって言ってたね。

砂漠や森の奥深くを訪れるには何かとかかるからね。泣く泣く手放したのもたくさん。
MemoryMoogはモスクワに置いてあるはずだけどね。どうなってるかな?まだちゃんと動いてくれるといいけど。
TR-909 も手元にあるけど、動かない。
もしも環境や予算が許すなら、いつの日か日本で MemoryMoog や 909 実機を使って Quantonic のLIVEをができたらどんなに素敵なことかと思います。
日本の人は物を丁寧にあつかうので、大切に管理されてちゃんと稼働できる Moog も国内に少なくないんじゃないかというイメージがありますよ。
ですが実際誰かに自分の Moog を使わせてほしいってお願いされたら、金額に関わらず私はごめんなさいって言ってしまうかもしれません!

正直ですね。なかなか難しい条件だけど、実現したらそれは本当にわくわくしますね。
キックの音なんかはやっぱり 909 をメインに使っているの?

909 も使っているけど、そのまま出力しているのは無いかな。キックはすべて Waldorf の Attack というソフト・ドラム・シンセでいろいろ混ぜていると思います。
そういえばソフトシンセは様々なものをたくさん使いました。なかでも Reaktor は多角的に研究してよく使っていましたね。

Quantonic というキャリアの中で印象に残っている風景 - 海外/日本

Quantonic はアジア広域やロシアなどで主に活動をしていたそうですが、元来世界中を回っているイグナットのユニバーサルな活動の中で、Quantonic として印象に残っているパーティーや思い出はありますか?

一番印象深かったと聞かれてすぐに思いだすのはポルトガルの「Freedom Festival」でプレイしたことですね。
CitiZen of Peace として出演していたんだけど、LIVE のあとオーガナイザーがすごくハマってくれて、クロージングタイムでの再演を頼まれました。
その時 CitiZen of Peace はまだアルバム1枚分に満たないくらいの楽曲しかなく、もう一度同じ LIVE をやるわけにもいかなかったので Quantonic としてDJ ブースに入ることになりました。
夕方、メインステージを含むすべてのプログラム終了後のチルアウトステージです。そこは音も良く、やわらかいけど鮮明でクリスピーな輪郭が気持ち良かったのを覚えています。
数万人で数日かけて交わした無数の共有を経て、なんとも幸せそうな1500~2000人くらいの人達が空を飛ぶようにゆれていました。まさに Tranquo といえる世界でした。

そういえば私たちがカトマンズで出会った直後、ネパールからあなたに見送られて出発した先がこの Freedom Festival でしたね。


Freedom Festival 2011, Portugal


Pubrick vol.12 - Psy Tribal Progressive Night -, 広島 Cafe JAMAICA

そうだったね。あの時はもう2度と会えないかと思ってヒヤヒヤしたよ。そのちょうど三年後にこうして君と仕事をしている様を見ると、とても感慨深いです。
(※ この辺りの話は Stories頁、Talkin' 'bout the Boogie, pt.1 に詳しく記述しています。)

私も日本の Lifetime Boogie オフィスで LIVE の準備なんかをしているとき、ふと、これは夢じゃないか?と思うことがあります。
おかげ様で日本には何か特別な気持ちを持っています。

Quantonic として日本のダンスフロアから強烈な印象を与えられたのは、広島の Psy Tribal Progressive Night の2回目ですね。
朝方に広島のアンセム、「仁義なき戦い」のテーマをその場でトランシーにリシェイクしてプレイしたらみんながすごい反応をして嬉しくなりました。
まったく違う音楽や文化を混ぜることで、音楽ジャンルの境界線と共に、私と広島の皆さんの境界線も消えたように感じました。
DJ には様々なスタイルや主義があると思います。私にとって大切なのは、まず私自身が楽しむこと!
最近では「Quantroller System」を使って、仁義なき戦いのようにその場でいくつかの違う曲を混ぜる、少しインプロビゼーション・アートに近いことをやっていて、これが非常に楽しいです。
8月のMAGOをはじめ、各地のダンスフロアーで皆さんと触れ合うのが待ち遠しいです。

Quantroller System については、来日してからあらためて取材させて下さい。コントローラーの画面やシステムの解説なんかも交えて是非!
今日は面白い話をありがとうございました。日本へ帰ってくるの、待ってるよ。

こちらこそありがとうございました。このインタビューで、自分でも新しく発見したことがいくつかありました。
もうすぐ4度目の来日です。CitiZen of Peace の新作も控えています。日本の友達、みなさん、よろしくお願いします!